「パン工房エピローグ」小林夫妻

第9号(2021年12月発行)

ー開店経緯を教えてください

 

(小林高行さん、以下高行さん)出身は佐久穂町なんですが、もともと東京で12年程パン屋で働いていて、いつかは自分のお店をやってみたいと思っていました。そんなある日、知人から「佐久穂町でパン屋を開かないか?」との誘いがあり、佐久穂町へUターン。ところが、実際に帰ってきてみたら、その話しは立ち消えになってしまって、他の仕事につくこに。そのまま月日が流れ、パン屋を開くことは半ば諦めていたんです。が、妻が是が非でもやりたいと。

(小林浩美さん、以下浩美さん)夫とは、中学からの付き合いで。彼は覚えていないかもしれないですけど、「将来は帝国ホテルでパンを焼くんだ!」と語ってたんですよね。そんな彼の夢を聞いて「あぁ自分もいつかパン屋さんの店頭に立ちたい!」と思うようになりまして。周囲にも「いつかパン屋さん開くからね!」と言い続け、周りからも「パン屋さんいつ開くの」と聞かれるような状況を作って、パン屋を開かざるを得ないような環境を積み上げ、夫のお尻に火をつけていったんです。そんな中で、子育ても一段落して、続けてきた保育園の仕事も終わりが見える中で、このタイミングしかない!と思い切って開店するに至りました。

 

(高行さん)まさかこの年になって、かつての夢が叶うとは。人生本当に分からないものですね。自分たちの人生の終盤にこのようなお店を開かせてもらえること、そしてパンの主素材である「小麦=エピ」から言葉をいただき、「エピローグ」という店名ではじめることにしました。

 

ー開店して2か月が経ちますがやってみていかがですか

 

(高行さん)いやもう正直「大変」の一言ですね。開店時間にパンを焼き上げるためには、午前2時には仕込み始めなければならず。また2時に起きるためには、夜7時には寝ないといけない。そうなると、大好きなお酒もあまり飲めずで……、もうなんだかなと思ったりもします()。でも、パンを焼きながら厨房からお店の様子を見ていると、本当にたくさんの人が来てくれて。そして、本当にいい笑顔でパンを買ってくれる。また、買っていただいた方が口々に「パン屋を開いてくれてありがとう!美味しい!」と言ってくれる。うま

く言えないですが、あぁお店を開いて本当によかったなと、じんわりと感じています。

(浩美さん) パンの良い香りに包まれながら、お客様の笑顔を見ることができる、皆さまからも、たくさんの感謝の言葉をいただける。本当に幸せな時間を過ごすことができています。こんな素晴らしい夢を叶えてくれた夫に対して、ただただ感謝の気持ちしかありません。もちろん、お店をやることは大変な面も多々ありますが、想像以上に夫が手際よく働く姿に、良い意味で驚いたりもしてまして。あーただの吞兵衛じゃなかったんだな、と()

(高行さん)パン屋を開いてなかったら、自分はお荷物扱いされてたかもしれません()。そういう意味でも、自分が活躍できるパン屋という場を作ってくれた妻には感謝しないといけないですね。

 

ーお店の特徴や、今後どんなお店にしていきたいかを教えてください

 

(高行さん)皆さまには、なるべく体に良いものをお届けしたく、できるかぎり素材は無添加のものを選んでまして。ジャムやクリームなども市販のものではなく、妻が手作りしたものを使っています。またできる限り地物の素材を使うことで、地域の恵みを無理なく循環させていくようなことができれば嬉しいですね。白樺の樹液を使った食パンなどは、エピローグでしか買えない逸品、ぜひお試しいただければと思います。開店して2か月が経ち、少しリズムも作れてきたので、色々と焼いてみたいと思っているパンにも、順次チャレンジをしていきたいと思っています。

(浩美さん)とにかくお世話になっている地元の皆様に、「美味しい!」の笑顔を届け続けられるよう、細く、長く、やっていけたらと思っています。なにぶん初老の二人が体に鞭を打ちつつやってるお店なので、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、温

かく見守っていただければ。あとは、「60歳を迎えた自分達でも人生の最終章でこんな夢を叶えられた」という事例を通じて、周りの皆さまが、何か一歩踏み出してみるきっかけになれたら嬉しいですね。素晴らしい手仕事をされている友人が何人もいるので、そのような

仲間の作品を、お店で販売していくようなこともできたらなと思っています。

 

ー18歳の皆様に一言メッセージをお願いします 

 

(高行さん)紆余曲折ありながら、気が付けばパン屋をやるに至っていました。パン屋さんで働いていた時のスキルがベースになってはいますが、それ以外の仕事も含めた経験があってこその今だなと痛感しています。皆さんが大人になり、働く時には、やりたいことも

あれば、やりたくないこともあるかもしれません。でも、ひとつひとつに必ず意味がある。どんな環境でも腐ることなく、その時々のお仕事を良い経験として楽しんでもらえたらと思います。

(浩美さん)60歳というこのタイミングで夢が叶ったのは、2つあると思っています。ひとつが「パン屋になりたい!」と言い続けたこと。ひとつは、袖触れ合うも何かの縁という言葉がありますが、人との出会いを大切にしてきたこと。言葉に出すことで自分がやりたいこ

とが明確になり、ご縁があった方々にその思いを伝えることで助けも得られる。結果的に自分自身の道が開けてくるんだと思います。夢というと大げさかもしれませんが、やってみたいことがあれば、皆さんもぜひ臆することなく、周りの方に言葉に出して伝えてみて

欲しいと思いますし、エピローグはそんな皆さんの「やりたい」を応援していければと思います。

パン工房エピローグ

【住所】佐久穂町高野町413-4【電話】0267-88-6990

【営業】午前10 時~午後5時(なくなりしだい閉店)

【定休】月・火曜日 【駐車場】

instagramhttps://www.instagram.com/epilogue_pankobo/

取材・テキスト

豊田陽介(東町)

カレー屋ヒゲめがね

 

 @higemeganecurry